「たかが歯ぐきの出血」が全身の病気を引き起こす?〜血流に乗る炎症とばい菌〜

はじめに 「歯を磨くと血が出る」「歯ぐきが赤い」 多くの方が経験するこの初期症状ですが、実はこれ、放置すると全身の健康を脅かす「非常に危険なサイン」だということをご存知でしょうか? 当院では、歯周病の治療を通じて、関節リウマチやアトピー性皮膚炎、糖尿病などの**「全身の炎症性疾患」を改善に導き、健康を底上げする「戦略的抗炎症歯周治療」**を行っています。 今回から3回にわたり、なぜお口の病気が全身に広がってしまうのか、その驚きの理由をお話しします。
歯周ポケットは「24時間開きっぱなしの傷口」 歯周病が進行すると、歯と歯ぐきの間の溝(歯周ポケット)が深くなります。実はこの中、血がにじむ「ただれた傷口」のような状態になっています。 中等度以上の歯周病になると、この傷口の面積をすべて合わせると「手のひらサイズ」にもなります。 手のひらほどの面積の傷口が、毎日24時間、常に口の中のばい菌にさらされ、無数の血管に触れている状態を想像してみてください。 「歯ぐきから血が出る」ということは、炎症の原因物質やばい菌が、血管を通って全身に流れ出す「入り口」がぱっくり開いているということなのです。
波及ルート①:血液に乗って「炎症の火種」が全身へ 歯周ポケットの中では、ばい菌と私たちの体を守る免疫が激しい戦いを繰り広げていますが、その過程で「炎症の火種となる物質(※1)」が大量に作られます。 この物質が傷口から血管に入り込み全身を巡ることで、関節ならリウマチを、すい臓なら糖尿病を悪化させるなど、遠く離れた臓器にまで火事を広げてしまいます。
波及ルート②:ばい菌が免疫を「誤作動」させる さらに恐ろしいのが、歯周病の親玉とも言える「悪玉菌(※2)」の存在です。 この悪玉菌は、特殊な酵素(※3)を出して、私たちの体の中にあるタンパク質を少しだけ「書き換え」てしまいます。 すると、私たちの体を守るはずの免疫システムが「これは異物だ!」と勘違いし、自分の関節などを攻撃し始めてしまいます。関節リウマチの発症や悪化には、こうした「免疫の誤作動」が大きく関わっています。さらには、リウマチで関節が壊れるのも、歯周病で歯を支える骨が溶けるのも、体の中で「同じ骨を溶かすスイッチ(※4)」が押されることが原因だと分かっています。
次回は、お口のばい菌が「腸」まで荒らしてしまう驚きの波及ルートについてお話しします。
(注釈)
※1 炎症の火種となる物質:IL-6、TNF-α、IL-1β、IL-17などの「炎症性サイトカイン」。全身の炎症マーカー(CRP)を上昇させ、インスリン抵抗性を悪化させます。
※2 悪玉菌:ポルフィロモナス・ジンジバリス(P. gingivalis)。歯周病の主要な原因菌の一つです。
※3 特殊な酵素:PAD(ペプチジルアルギニンデイミナーゼ)。タンパク質を「シトルリン化」し、自己免疫の誤作動(抗シトルリン化タンパク抗体の産生等)を引き起こします。
※4 骨を溶かすスイッチ:RANKL(破骨細胞の分化・活性化因子)。歯周病と関節リウマチに共通する骨破壊のメカニズムです。