はじめに 前回は、歯周病菌や炎症の火種が「血液」に乗って全身に広がるルートをお話ししました。 今回は、さらに意外な「免疫の働き」と「腸」を通じたルートについて解説します。 当院の「戦略的抗炎症歯周治療」は、お口を綺麗にするだけでなく、見えない全身の「負の連鎖」を断ち切ることを目的としています。
波及ルート③:過剰な防衛戦が自分自身を傷つける 私たちの体には、体に侵入したばい菌を食べて退治してくれる細胞(※1)が存在します。この細胞は、ばい菌を捕まえるために「特殊な網(※2)」を投げて戦います。 通常は頼もしい武器なのですが、歯周病が長引くと、お口の中でこの網が過剰に投げられ続けます。すると、その網の残骸が散らかり、結果的に自分の組織を傷つけたり、免疫を暴走させたりして、自己免疫疾患を悪化させることがわかってきました。
波及ルート④:口から腸へ、そして全身の炎症へ 今、世界中の医学研究で最も注目されているのが「お口と腸のつながり」です。 私たちは1日に約1〜1.5リットルの唾液を自然に飲み込んでいます。歯周病にかかっていると、その唾液には大量の歯周病菌が含まれており、そのまま胃を通り越して「腸」にまで到達してしまいます。 これが毎日繰り返されると、腸の中の「善玉菌と悪玉菌のバランス」が崩壊します(※3)。
腸は、全身の免疫細胞の約7割が集まる、人体最大の免疫要塞です。 腸内環境が荒れると、体を守る免疫の「アクセルとブレーキの機能(※4)」が壊れ、腸の壁にわずかな隙間が生じてしまいます。この状態(※5)になると、そこから細菌の毒素が血液中に漏れ出し、全身の炎症をさらに爆発させてしまうのです。
このように、たかが歯ぐきの病気と思われがちな歯周病は、「免疫の暴走」と「腸内環境の悪化」を通じて、全身を炎症の渦に巻き込んでいきます。 最終回となる次回は、当院の治療がどのようにしてこれらの連鎖を止め、皆様の健康を守るのかをお話しします。
(注釈)
※1 細胞:好中球(白血球の一種)。
※2 特殊な網:NETs(好中球細胞外トラップ)。これらが過剰に放出される現象(NETosis)により自己抗原が露出し、全身炎症を助長します。
※3 バランスが崩壊する:腸内ディスバイオーシス(菌叢異常)。
※4 アクセルとブレーキの機能:Th17細胞(炎症のアクセル)が異常に活性化し、本来ブレーキ役のTreg細胞もうまく機能しなくなる状態です。
※5 腸の壁の隙間からの漏れ:リーキーガット(腸管漏出症候群)。腸管のバリア機能が低下し、LPS(リポポリサッカライドと呼ばれる細菌の毒素)が血中へ流入しやすくなります。