部分を診るよりは全体を診る診療が多い
患者さんの主たる治療や年齢層を教えてください。歯周病で困っている方が多いですね。
石川聡 院長
若くて歯周病が重症な方でしたら、欠損はないので歯周病だけを治療します。
そのような方は全体の一割程度で、生涯にわたってメンテナンスを受け続けることが必要になります。
普通の方でも40歳から始まって50代、60代になると歯周病だけでなくむし歯などで歯の欠損ができると総合的な治療が必要になってきます。
歯周病と欠損の両方があると歯周病やインプラント、矯正治療などを含めた包括的な治療が必要になります。
そのようなトータルの治療を提供できている歯科医院は少ないためでしょうか。
包括的治療を受けられる歯周病の患者さんが多いのが、当院の特徴です。
ですからお子さんもいらっしゃいますが、患者さんの年齢層は高めですね。
長期的な治療を受けられる患者さんは主に50代、60代ですが、最近は70代や80代でも受けられる方がいらっしゃいます。
さらに健康な方は通常の治療に加えて、歯周病を治す外科処置やインプラント治療を受けられています。
全体的な治療を受けられる患者さんは、今までの治療がうまくいっていない、歯周病になって歯ぐきの位置が変わって以前と同じ治療が受けられない、歯周病が進行してもう一回やり直さなければならない方が多いので、全体的に再構築をしていく治療が多いですね。
そのため、歯周病治療及び補綴などを含めた全顎的な治療を受けられる方が多いです。
開業当初からそのような患者さんが来院されていたわけではないのですが、今では大学病院や近隣の歯医者さんに重度の歯周病の方を紹介していただいたり、遠方にお住まいの方が当院を探していらっしゃったりしています。
目的を持ってお越しいただくケースが多いですね。
全身のリスク、患者さんのライフスタイルに応じた治療バリエーション
基礎疾患(高血圧症・高脂血症・糖尿病など)を抱えている患者さんの治療において、どのような点に注意していますか。
糖尿病の場合は、HbA1cの値が改善すれば通常通りの治療が出来ますので、改善するまでは負担のかからない治療をします。
高血圧の場合は、降圧剤を飲んでいらっしゃる方が多いので、通常はコントロールされています。
そういう方に関してはある程度の範囲の中で負担の少ない治療をします。
例えば、レーザーでスケーリングをする、外科処置をあまりしない、仮に外科処置をするとしても負担の少ない治療をする、という工夫をして患者さんにとってベストな治療を提供しています。
基礎疾患より抜歯や外科処置が出来ない患者さんの場合はかなり制限があります。
抜歯が出来ない方のケースは、矯正学的に少しずつ垂直に引っ張り上げて数ヶ月かけて歯を抜くこともあります。
そのような治療には個別にカウンセリングをして適宜対応しています。
貴院ではどのような患者説明、動機付けを行っていますか?
丁寧でわかりやすい説明を心がけています。
医療側が説明しても患者さんが歯周病への理解がない状態、治療に前向きではない状態での治療は難しいのですね。
時間と費用がかかる治療なので、定期的に通っていただけるようにわかりやすい説明をすることを心がけています。
また、仕事が忙しくてなかなか来られない患者さんには、普段は出来る範囲内である程度きれいにして、休みが取れる時にお越しいただいています。
少しずつでも治療を進めることが大事なので、一人ひとりの患者さんの忙しさに応じて診療をしています。
かみ合わせを基準にしたインプラント治療
インプラントと入れ歯の患者さんへの提案の基準を教えてください。
一人ひとりに合わせた治療を提供しています。
欠損状態によって変わってきますが、骨がある遊離端欠損の患者さんはインプラントの方が現代の歯科医療では満足度が高いので、そちらを選択することが多いです。
お口の中に欠損以外の問題がない状態であれば、インプラントを入れることにリスクは少ないとされていますが、歯があっても歯周病になっている場合が多いですね。
このような状態でインプラントを入れても長持ちしなかったり、インプラント周囲炎になったりする場合が多いです。
ですから、インプラントをする患者さんに対しても、全顎的な歯周病の治療をして、お口の中に問題がない状態にした上でインプラントを入れるのが基本です。
入れ歯に関しても、きちんとしたかみ合わせができる入れ歯を入れるのであれば良いのですが、妥協して入れた入れ歯は他の歯に負担がかかる場合があります。
後ろに支える歯がない欠損ではなく後ろの歯がしっかりしている中間欠損であれば、保険適用の入れ歯でもある程度は咬めます。
ですが、そのケースはあまりなく、後方歯の欠損が多い場合に入れた保健の入れ歯は、他の歯に負担をかけてしまう場合があります。
「補綴学的に、長期的にお口の中の咬み合わせがしっかり維持出来る」というのが選択の基準です。
ですから、インプラントと入れ歯で分けるのではなく、補綴学的にその患者さんに最も正しい方法を提案・選択します。
入れ歯でもしっかりとした入れ歯が入る場合は入れ歯を提案します。
入れ歯の方が良い場合もあります。
また、治療経過の中でインプラントを入れるのが最後になる場合は、それまで入れ歯を入れることがあります。
最終的な補綴がどのようなものになるかはケースバイケースです。
医療者側としてはインプラントと入れ歯の二者択一ではなく、それぞれの適応条件に応じて最適なものを提案する、もしくは両方提案して選んでいただきます。
それは治療計画の中で最適なものをこちらから提案します。
長期的に安定するものを提案し、患者さんに納得していただけることが一番です。
費用的な制限がある場合はある程度絞った選択肢を出させていただいて選んでいただきます。
入れ歯とインプラントでは補綴の強さが違うので補綴学的に正しい方向で判断します。
歯周病治療には衛生士は不可欠
歯科衛生士の予防処置の流れを教えてください。
正しいブラッシングでお口の中をきれいにしましょう。
歯周病治療においては衛生士さんにお手伝いいただいて、患者さん自身が正しいブラッシングが出来て、お口の中の衛生状態を上げてもらわないと、歯周病はコントロール出来ません。
ですから、患者さんへのブラッシング指導をしっかりやっていただいて、その上でブラッシングだけでは治らない箇所や不良な補綴物がある場合は外します。
そして、仮歯などを入れて患者さんの歯ぐきがしっかりとした状態にしていくというのが最初の治療の目的になります。
もちろん超音波スケーラーや、ハンドスケーラーで歯石を取ることも必要ですが、まずは患者さんと一緒にブラッシングを練習します。
炎症が強い人は歯ぐきが弱くて赤くて腫れていて、ブラッシングをすると歯ぐきも引き締まりますし、外科も出来るようになります。
歯ぐきが腫れていると外科処置が全くできないので、患者さん自身にブラッシングの重要性を理解していただき、実際に意識してやっていただくことが重要です。
ある程度やっていただかないと効果が出ません。
時間と効率が大事です。
磨きにくいところを磨かないとそこの炎症がいつまでたってもおさまらないので。
細かいブラッシングの方法を学び、歯間ブラシやフロスを使いこなしていただくと、重症でない限りは歯ぐきの状態は良くなってきます。
それが衛生士さんの予防処置の最初の重要なポイントになります。
開院当初と現在では、患者さんの口腔内環境は変化しましたか?
きちんとした診査・診断のもと、治療を行っています。
ある程度定期的に来ていただかないと良い状態は維持出来ないので、きちんとお越しいただいている方は何回もTBIもやっているので大分良くなっている方もいらっしゃいますね。
歯周病治療の目的は4mm以上の深さの歯周ポケットが全くない、歯周病ではない状態を維持することです。
4mm以上の深さのポケットがゼロでないと治癒している状態ではないので、その状態を維持出来ている人は来院回数が少ないです。
半年に1回でも1年に1回でも歯ぐきが締まっていれば問題はないです。
最後まで治療すれば治りますが、治った後も定期的にお越しいただければその状態をずっと維持出来ます。
もし治っていないところがあってメンテナンスの頻度が下がると悪くなる傾向があります。
まずは私の思いを患者さんに伝えることが第一歩
患者さんとのコミュニケーションで心がけていることを教えてください。
ポケットチャートの値、その人が持っているリスク、悪いところによってメンテナンスの頻度も変わってきます。
コミュニケーションをとる時もちゃんとそこを伝えます。
例えば1ヶ所だけ悪いところがあれば、そこの磨き方を指導します。
定期的に来院してきれいにしている患者さんはまず問題は起こらず、良い状態を維持していただいています。
患者さんとコミュニケーションをとる上で、個別のリスクの高い病気を理解していただくことを重視しています。
スタッフ教育で注意していることはありますか。
患者さんの満足度を高めるスタッフ教育
患者さんへの私の想い・考えを理解していただいて、どの衛生士さんが診療しても同じようにそれを伝えられるように指導しています。
例えば、症状が同じでも衛生士さんによってフロスを勧めるのか歯間ブラシを勧めるのかが違ってしまうと患者さんも混乱してしまうので、一貫性のある指導が出来るようにしています。
医院としての方針が一貫していることが一番重要ですからね。
例えば、歯周病は歯周ポケットの深さを測らなければ歯周病かどうかわからないので、ポケットを測った上でそのデータをもとに患者さんにリスクも含めた治療の説明をすることが大事です。
メンテナンスの時にむし歯と歯周病以外にチェックしていることはありますか?
お口の中なので軟組織の状態が、例えば歯ぐきが弱い人は強い部分の面積が少なくなっていたり、なくなっていたりする人やそれによってしっかりブラッシング出来ない人は歯周病のリスクが高いので、そのような付着歯肉のない人に関しては、歯周病でなくても通常はブラッシングによる歯ぐきの引き締めを、重度の場合は外科処置を行い、環境改善をしていきます。
また、歯ぐきが元々弱く、患者さんが痛くて歯みがきが出来なくなっている場合は歯肉を移植することもあります。
基本的には歯周病でなければやわらかい歯ブラシを使っていただいて、少しずつ歯ぐきを丈夫にしていきます。
知覚過敏や噛み合わせ、歯列、軟組織の状態など、全身的な問題を含めた患者さんの様々なリスクをチェックしています。
消毒、滅菌で気をつけていることを教えてください。
患者さんに使用するものなので、オートクレーブに入れられるものは入れますし、入れられないものは薬液できちんと清潔にしています。
オートクレーブは滅菌度の高いものを使っています。
当たり前のことですが、あらゆるリスクを踏まえた上で、最大限の医療を患者さんに提供出来るよう心がけています。
歯周病研究の第一人者の父からの学び
臨床現場で喜びを感じるのは、どのような時ですか?
困っていた患者さんに「しっかり食べられるようになりました」と笑顔で言っていただいた時、一番喜びを感じます。
それに勝るものはないですね。
お父様は歯周病に関して高名な石川烈先生ですが、お父様からの学びを教えてください。
もちろん父からの直接の学びもありますが、普通ならなかなか会えない世界的に有名な歯科医師を紹介してもらったことが一番大きいですね。
世界の歯科医療、特に歯周治療の歴史の中ではアメリカ東海岸において、それほど医師の人数が多くない中で、あらゆるものが構築されてきたんですね。
ですから、父を介して歯周病治療の中核に接することが出来たのは良かったですね。
歯科大での学びや勤務医時代の経験で、現在の臨床に活かしていることはありますか?
少しでも満足度の高い治療を目指しています。
もちろん歯科大では多くのことを学びましたが、実際に医師になってからの方が学ぶことははるかに多いですよ。
大学を卒業した時が一番不安だったと思います。
免許は取ったけど何も出来ないのでは一人前とは言えないですからね。
大学で学んだことをベースに、日々治療のトレーニングを行い、お金を払っていろいろな講習会に出席し、あらゆる治療の情報を集めてそれを消化することが必要です。
ですから、自分が患者さんに良い医療を提供出来ると言えるようになるまで、それなりの時間がかかります。
治療してどのくらいの結果が出たかというのも大事です。
独りよがりな判断ではなく、客観的に治療の効果が裏付けられないと意味がありません。
自分が治療してそれが患者さんのお口の中である程度の期間全く問題なく機能して、今後も問題ないだろうなと思える治療をルーティーンで提供出来ようにならなければ、自分が良い医療を提供出来ているとは言えません。
JR津田沼駅北口より徒歩3分イオンの目の前です。
勤務医時代の経験も全て活かしていますが、客観的に勉強して自分が出来るようになれば、今度はそれを人に伝えていくことが目的になります。
自分が出来るのとそれを人に伝えるのは全く違うことです。
今度は伝えるための手段を勉強しなければいけません。
ですから、リミットはないですよ。
治療の勉強をしてそれを人に還元出来るようにあらゆる方向で努力し続けることが大事だと思います。