【第3回】ダウンタイムと再生医療研究|EV(エクソソーム)粘膜下投与の4つのしくみ
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歯科の手術後のダウンタイムに関わる研究として注目されるEV(エクソソーム)。炎症の収束・血管新生・上皮化・瘢痕抑制という4つのしくみを、文献を挙げてわかりやすく解説します。未承認・自由診療であることも含めて正直にお伝えします。
EVとは ―「細胞からの小さな手紙」
体の細胞は、ときどき小さなカプセルを外に放出しています。これが細胞外小胞(EV)、その代表がエクソソームです。大きさは1ミリの1万分の1ほどです。
このカプセルの中には、細胞に向けたメッセージが入っています。受け取った細胞は中身を読んで、「今は炎症を抑える時期か」「血管を作る必要があるか」と、ふるまいを変えます。つまりEVは、細胞どうしが送り合っている手紙のようなものです。
細胞外小胞は細胞が分泌する物質で、組織の修復に関わる合図や、細胞どうしが情報をやり取りするための材料を含んでいます。細胞間のコミュニケーションに重要な役割を担っていると考えられています。
中でも脂肪由来幹細胞のエクソソームは、炎症を整えたり、細胞が増えたり移動したりすることを助けたり、血管づくりを促したり、組織を作り直す流れに関わったりすることを通じて、傷の治りに関与する可能性が報告されています。
研究で示されている4つのしくみ
① 「片づけモード」を早く終わらせる
第1回でご説明した炎症期に関わる部分です。
傷が治るとき、マクロファージという細胞が現場に来ます。この細胞には、主に2つの役割があります。
• こわす係:壊れた組織や不要なものを片づける。同時に、腫れや痛みにつながる合図も出す
• なおす係:組織を作り直す方向へ、現場を切り替える
傷の直後は、「こわす係」が中心になります。しかし時間の経過とともに、「なおす係」が増え、傷は修復の段階へ移っていきます。腫れや痛みは、主に前半の「片づけ」の時期に集中します。
EVには、炎症を強める細胞内の合図を弱め、修復へ向かう合図を後押しする情報が含まれる可能性があります。こうした働きによって、マクロファージが「なおす係」へ切り替わることを助け、炎症に関わる細胞が傷の場所へ集まりすぎるのを抑える可能性が報告されています。
② 血流の回復を後押しする(最重要)
第2回の「開通スピードがカギ」に直結する部分です。
EVには、血管の内側をつくる細胞に「新しい血の通り道をつくる準備を始めてほしい」と伝える情報が含まれる可能性があります。これは、血管づくりにブレーキをかける仕組みをゆるめたり、酸素不足を感知した細胞が血管づくりを進める流れを後押ししたりすることによると考えられています。
歯の根の先にある幹細胞から得られたエクソソームでも、酸素が少ない環境で血管づくりを助ける可能性が報告されています。
移植したばかりの歯ぐきは、まさに「血が通っていない=酸素が足りない」状態です。
そこへ「血管をつくれ」というメッセージを届けることには、理屈のうえで筋が通っています。
③ 粘膜の再生を後押しする
口の中の粘膜の細胞から採れたエクソソームが、傷の治りを促したという研究があります。
また、幹細胞由来のエクソソームが炎症を整え、傷を埋める働きをする細胞が増えることや、血管づくりを後押しすることを通じて、口や顔まわりの傷の治りを助ける可能性があるとする総説もあります。
④ 仕上がりが落ち着くのを助ける
傷の治り方には、「かたく縮んで治る」か、「やわらかくなじんで治る」かという分かれ道があります。
脂肪由来幹細胞のエクソソームは、傷あとが硬くなりやすい組織の作られ方を抑え、しなやかで整った組織へ作り替えていく方向に働く可能性が報告されています。
たとえば、傷が強く縮むことに関わる細胞への変化を抑えたり、傷あとが目立ちにくい治り方に関係する組織のバランスを整えたり、古い組織を入れ替える働きを後押ししたりすることが示されています。
口の中の粘膜の線維芽細胞でも、エクソソームが組織をつくる材料の過剰な産生を抑えたという報告があります。
なぜ「粘膜の下」なのか
メッセージを届けたい相手である、炎症を調整する細胞、傷を埋める細胞、血管をつくる細胞は、いずれも粘膜のすぐ下の層にいます。
EVは体内で比較的早く減少すると考えられており、投与した後に長くとどまりにくいことが、働きを発揮するうえでの課題の一つと指摘されています。だからこそ、届けたい相手のすぐ近くに「手紙」を置くという考え方には合理性があります。
EVの研究は、歯科以外でも進んでいます
当院で使用しているものと同じEV製剤は、歯科以外の領域でも用いられています。そのひとつが生殖医療の分野です。
体外受精では、子宮内膜の厚みが妊娠のしやすさに関わります。しかし、内膜が薄いまま改善しにくいケースもあります。そこで、幹細胞やそのエクソソームによって、内膜の修復を促せないかという研究や臨床応用が進められています。
注目されているしくみは、ここで説明したものとほぼ同じです。間葉系幹細胞由来のエクソソームは、細胞に「組織を修復する」「血管をつくる」「炎症を整える」といった指示を伝えるさまざまな情報を運ぶことで、体の修復を後押しする可能性があると考えられています。
人を対象としたものでは、子宮鏡手術後の薄い内膜に対して、へその緒由来幹細胞エクソソームを投与し、内膜の厚みが改善するかを評価する臨床試験が実施されています。ただし、エクソソーム単独の臨床データは、これから積み上がる段階です。
💡 お伝えしたいのは、「他分野で使われているから安全」ということではありません。体の修復という共通のしくみに、複数の分野の研究者が同時に注目しているという事実です。
当院で使用しているEVについて
当院で用いているEV(エクソソーム)は、株式会社セルソースと提携している医療機関との協力関係により入手しており、再生医療の法律による承認を得た施設日本国内の細胞加工施設から医療機関を通じて供給を受けています。海外からの個人輸入によるものではありません。
この記事でご紹介するEV(エクソソーム)は、各先進国においてもまだ、医薬品として承認されておりません。我が国においても非常に新しい技術であり、現在ではまだ未承認の医療であり、自由診療です。あらゆる個体にすでに存在している体内の成分です。
そのうえで、「どういう機序に基づいているのか」を知りたい方のために、しくみを正確にご理解頂けるよう本記事を作成致しました。